犬は三日飼うと三年恩を忘れない。

その頃、本所から四谷箪笥町たんすまち、
芝片門前、三田の赤羽橋辺まで
襖を積んだ車を引いて使いにやらされる

行きにその犬を車の梶棒へ綱でつなぐとグングン
車を引いてくれる。先方へ行って使い賃をもらうと、
パンを買って半分は犬に食べさせて、

空になった車へ犬を載せて引いてくる。
今でもバタヤさんが

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犬は三日飼うと三年恩を忘れない。

ぼくがあまり犬を可愛がりすぎるので、伯父がぼくに内緒でどこかへ捨ててきたらしい。 二、三日の間は仕事も手につかず、食べる物もうまくない。 それこそ血眼になって探したがわからない。

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犬は三日飼うと三年恩を忘れない。

去る者は日々に疎し、というか、 二月、三月とすぎ、半年もすぎるとまるで思いださないというより、 どんな犬 であったか思いだせないくらいになっていた。

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犬は三日飼うと三年恩を忘れない。

すると或る日、京橋八丁堀まで例によって車を引いてゆき、 帰りに、その頃「中外商業新聞」というのがあって、その前の坂本公園という、 いやに淋しい公園の前までくると、だし抜けにぼくに飛びついた犬がある。

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びっくりして見ると、半年ほど前にわが 子のように可愛がったその犬である。

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犬も夢中になって飛びつく、ぼくも暫時 われを忘れて抱きかかえて、

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また改めて伯父に頼んで飼ってもらった が、その犬の顔は今でも眼をつぶると瞼のうちに見えるようだ。

その頃、
本所から四谷箪笥町たんすまち、
芝片門前、三田の赤羽橋辺まで
襖を積んだ車を引いて使いにやらされる

行きにその犬を車の梶棒へ綱でつなぐと
グングン
車を引いてくれる。
先方へ行って使い賃をもらうと、
パンを買って
半分は犬に食べさせて、

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とんだの犬の話になったが、いろいろの種類の犬も飼ってみたが

何の何種という系統正しい犬でも、名もない雑種の野良犬でも、飼えば同じように可愛いもの

若い時分、駄犬のことで犬捕りの人夫と殴りあいの喧嘩をしたことがある

本所太平町に住んでいる時分、下手な鉄砲をやっていたので

ポインターの猟犬を飼っていたが、これも子犬からもらってきて